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"むかしむかし、あるところに"

銀色の髪をもつ、青い瞳の女の子が住んでいました。
女の子は色素が少し薄く、お医者様からなるべく日の光に当たらないよう言われていました。
学校に通うこともできず、お父さんに連れて行ってもらう夜の散歩が、数少ない楽しみでした。
お父さんの帰りが遅くなってしまった日のことです。
女の子はどうしても外に出たくて、一人で夜の街へ歩き出しました。
普段は歩くことのない道へ入り、普段は見ることのない景色を眺め。
その青に無機質な明かりを映して、女の子の瞳は輝いていました。
そうして歩いているうちに、人に出会いました。
その人は不思議な人でした。
あるときはナイフを手足のように扱い、またあるときはカードの模様をぴたりと当てて見せるのです。
女の子には、その人がまるで魔法使いのように見えました。
それからというもの、お父さんがいない日はその場所に通いました。
その人が魅せる魔法に、だんだん世界が染められていきました。
そんな日が、飽きることなく繰り返されていました。

ある日のことです。
女の子はその日も、その人に会いに、その場所へと足を向けました。
ところが、いつもの場所にその人はいませんでした。
それどころか、まるで生き物が避けているかのように静かでした。
その場所には、代わりに一枚のカードがいました。
彼には、黒い剣が10個、描かれています。
彼は、その人が魔法を使うのを手伝うカードたちのうちの一人でした。
女の子は、吸い込まれるように彼を手に取りました。
そのときからです。
……女の子の中に、彼が棲み始めたのは。
女の子は少し元気になりました。
……けれど、お父さんは悲しそうな表情を浮かべることが多くなりました。
お日様に当たっても苦しくなくなりました。
……けれど、女の子は苦しんでいました。
お父さんは知っていたのです。女の子が眠っている間、ずっとうなされていることを。

女の子は、次第に輝きを失っていきました。
銀色の髪は灰色にくすみ、青い瞳は昏く沈みました。
お父さんは悩みました。
どうすれば女の子を救うことができるのかと。
お父さんは悩みました。
女の子を救ったとして、それは本当に救ったことになるのかと。
そうしてやがて、お父さんはある噂に辿り着きました。
極東の国には、彼に関する知識が存在する、という噂です。
お父さんは、その国に住む遠い親戚を頼ることにしました。
その国なら……女の子の心も、体も、救うことができると信じて。
こうして、女の子は大好きなお父さんの元を離れたのです。
おしまい。

……このお話が本当かどうか?
信じる、信じないは。貴方様のご自由に。
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